おじしゃんの花
昔々あるところに、テストやら定期演奏会やらが控えているのにもかかわらず疲れるの承知でカラオケに行ってしまう弧弦という少年がおりました。
その少年は、他のメンバー3人とあわせて4人で自転車を走らせていました。
その途中、弧弦の自転車に異変が起きたのです。
なんと、チェーンがガツっと外れて、どれだけ漕いでも後輪が回らない、つまり走らない状況になってしまいました。
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とりあえずその現場からカラオケまではそう遠くなかったので、自転車を運んで(正しくは友達の1人が運んでくれて)カラオケ屋の駐輪場までたどり着きました。
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その後、弧弦君たちは暴れました。7時間か8時間かぶっ通しで歌いました。
ゆず歌いました。ラルク歌いました。ポルノ歌いました。ケツメイシ歌いました。
自前のブルースハープを8本も持ってきたりしました。
3、4本しか使いませんでした。
年ごとのヒットパレードメドレーを順番に歌うという企画では、弧弦君が他のメンバーがみんな知らないような歌をいっぱい知っていました。90年、91年、92年あたりの曲がわりと歌えてしまいました。88年生まれなのに。
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俺が古い人間なのか?いや違うよ。姉がいるからだよ。この年代は姉が好きな年代だからよく聞くんだよ。と、必要の無い言い訳をかましたりもしながらカラオケ屋をあとにしました。しかしそこには故障中の自転車がありました。
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そんなことはお構いナシに、自転車を引いて徒歩1分のところにあるゲーム屋に寄りました。FF10が中古でも4000円弱しました。欲しいけど金が無い。
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さて、そろそろ自転車をどうにかしようと考えた弧弦は、100円ショップでちっちゃい工具6本セットを買いました。これでチェーンを直そう!と作業に取り掛かりました。友達が。弧弦は押さえてただけでした。なんかしろよ。
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しかしこのチェーンが曲者で、硬くてなかなか直りませんでした。20分ぐらいガチャガチャやっても直りませんでした。こんな時、誰か助けてくれないかなぁ・・・
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そんな人はいませんでした。駅前の人がむっちゃ多い場所なのに。仕方なくガチャガチャ。途中心配そうにこちらを眺めている青い服のおじしゃんと、黒い服の若人はいましたが、眺めているだけでした。「日本人は決定力に欠ける。」とは後に弧弦が漏らす言葉。
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もうだめだ。やっぱりこのわりと長い道のりを自転車引いて帰るのか。明日は学校どうしよう。いろいろな思いが交錯する中、ついに救世主は現れたのです。
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「チェーン外れた?」と声が。振り向くとそこには、さっきの青い服のおじしゃんが!そのおじしゃんは自信ありげに直し始めました。
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おじしゃんは手を汚してくれました。こんななんでもない少年、テスト勉強もしないような輩の自転車を直す為に。
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「がちゃっ!」となにかがはまる音。おじしゃんは、チェーンを引っ掛けてくれました。直してくれました。
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こういうホモサピエンスがいる限り、この星はやっていけると思いました。人の優しさに触れたこととは何年振りでしょうか。この文を打っている今も、目が潤んできてしまうほどです。
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おじしゃんが直してくれた自転車を走らせた帰り道、ペダルを漕げばタイヤが回る、そして僕は前に進む、ということを痛くかみ締めながら闇に消えていくのでした。
めでたしめでたし
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てすとは?